六月の雫

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「何故だ……」  僕はぎゅっと唇を噛んだ。  数分前までの自信はあっという間に砕かれた。  少ない金額を賭けた時は思い通りであったのに大金を賭けた途端に負け始めたのだ。  一体何を間違えたんだ?  いや、落ち着け。  こんなの微々たる失敗じゃないか。  些細な事で動じてはいけない。  それこそが成功の秘密だと、いつしか読んだ本に書いてあった。  それに、僕には才能がある。  負ける筈が無い。  落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながらも、所持金は減る一方。  いつしか焦りで僕は自分の髪を(むし)り取っていた。  ふとKは今どうなっているのかが気になり、横に目をやる。  だが、僕はKの所持金よりもKの行動に目が釘付けになった。  Kは巻きタバコを取り出してスパスパと吸い始めたからである。  よく見ると周りの男達にも吸っている人がいた。 「おい、お前未成年だろ?タバコはやばいって」  隣で美味しそうに吸うKをどつく。  Kはニヤリと笑った。 「これはただのタバコじゃないんだよ」  よくよく見ると、Kの目から生気が消えていた。  興奮気味に話すKは、上手く説明出来ないが、誰がどう見ても正常とは言えない表情をしていた。 「これ吸えば勝てるんだよ」  こそっとKは耳打ちする。  鏡見てみろと言いたかった。  Kの状態は勝てる人の状態ではないのだ。 「嘘だと思うんだったら確かめてみな」  Kはポケットからまったく同じ巻きタバコを取り出して渡してくれた。  吸ってはいけない。  けれども、勝ちたい。  気持ちが揺れる中、僕は恐る恐る巻きタバコを受け取った。
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