六月の雫

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 しばらくして、書斎からタバコを取ってこれば良いと思いつく。  父は仕事(主に脚本を読んだりする)の合間にタバコを吸っている。  だから仕事で使う書斎にはタバコが置かれている筈だ。  父と母が仕事に行くのを待ち、僕は書斎に忍び込んだ。  父は綺麗好きだ。  だから書斎もきちんと整理整頓されている。  机には埃は一切見当たらない。  ガラス製の灰皿も新品の様に透き通っていた。  一番初めにチェックしたのは書斎机の引き出し。  引き出しには鍵がかかっていたが、父がその鍵を鑑賞植物の葉の下に隠している事は分かっていた。  他の引き出しには鍵をかけないのにその引き出しにのみ鍵をかける。  つまり僕に触れさせてはいけない物が、タバコが入っているに違いない。  入っている物が重要な書類である可能性もある。  だが、もう一度昨日のあの気分を感じたいと思うあまり、僕はタバコしか考えられなくなった。  震える手でその引き出しを開く。  開いてみてあっと驚いた。  綺麗好きな父の引き出しとは思えないほど中身が乱雑な状態となっていたからである。  あからさまに乱暴に突っ込まれたプリント類はくしゃくしゃとなっていた。  タバコは入っていなかった。  だが、引き出しの奥にはくしゃくしゃになっていない、束になった手紙の様な物が顔を覗かせる。  くしゃくしゃのプリント類はまるでその手紙の束を隠す為に存在しているかの様で、僕の好奇心を掻き立てた。
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