六月の雫

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 束になった手紙から一枚を抜き取る。  宛名が父の名前で、いつものファンレターかと思った。  しかし差出人が何故かRだった。  もう数枚手に取ってみるが、差出人はやはりR。  いつでも(うち)に遊びに来れるRは父にファンレターを出す必要があるとは思えなかった。    悪いなと思いつつ、手紙を開封する。  Rの手紙と、数枚の写真が入っていた。  はっと僕は息を呑む。  恋人繋ぎをするRと父の姿が写真に写っている。  他にも、抱き合ったり、キスを交わしたりする写真も。  俗に言う浮気の写真ばかりだ。  暫くその場に固まる。  父は、Rと浮気をしている?  あの愛妻家で有名な父が?  Rも母の存在を知っているし、母を姉の様に慕っていたのではないか。  これは浮気じゃないと自分に言い聞かせるが、誰が見ても写真に映っている二人は普通の友達同士のスキンシップを超えていた。  でも、父と母の関係は円満な筈だ。  新聞で芸能界の浮気率の高さが取り上げられた時は、父と母は見向きもしなかった。  二人の仲良さは、離婚率の高い芸能界では珍しいと言われ続けてきたのに……  写真をそっとポケットにしまう。  ほぼ、無意識だった。  恐らく信じ難いが故に、後となってもう一回確かめようとした心理が働いた為である。  引き出しを元の通りに戻せたのかすら分からずに、僕はふらふらと書斎から出た。
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