六月の雫

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 部屋に戻り、僕はまた眠りにつく。  何も考えたくはなかった。  どれほどの時間が経ったかは分からないが、目覚めた時、体の怠さは消えていた。  だが、手元に残っている写真を見て、再び体が重くなる。  父は、何故母を、家族を裏切った?  父の浮気に対する怒りよりも、正直ショックの方が大きかった。  捨てられた様で、何とも惨めな感じがした。  日が西に傾く。  Kとの約束の時間はとっくに過ぎていたが、賭博に行く気力すら無かった。  暫くして母が帰ってくる。  何かいい事でもあったのだろうか。  好きな曲を口ずさんで夕食の準備をしていた。  母にこの事を知られてはいけない。  僕ですらショックを受けたのに、父を愛してやまない母は本当にどうなるか分からない。  僕は厳重に写真を隠した。  母は本当に純粋な人だ。  どんな悪人も、母のあの綺麗な瞳に見つめられると罪を悔いるだろう。  僕と、あの卑劣な父とR以外は。 「おかえり」  部屋を出て、上機嫌な母に話しかける。 「なんかいい事あった?」 「今日もRちゃんが(うち)に来るの」  ご馳走を振る舞うわと張り切る母。  僕の笑顔は一気に固まった。 「Rが来るのはそんなにうれしい事?」  僕のやや不機嫌な声に母は首を傾げる。 「嬉しいわよ。そう言えば昨日Rちゃんに会わなかったでしょ。今日はきちんと挨拶しなさいよ」 「しない」 「え?」 「Rなんかに挨拶するものか!!口を開けばRの名前。Rは大っ嫌いだ」  僕がそんなことを言うとは思っていなかったからだろうか。  母は大きな目を見開いて、信じられないとでも言う様に、悲しそうに僕を見つめていた。
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