六月の雫

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 そんな母に構わず、頭に血がのぼった僕はRの悪口をペラペラ話す。  Kや賭場にいる男達の会話を聞いたせいか、悪口は自然と口から出た。 「Rなんてこの世から消えれば良いんだよ」  僕が何気なくこの言葉を口にした瞬間、大きな音と共に強い衝撃が頬にくる。  目の前が暗くなったり明るくなったりしているうちに、気が付いたら僕は床に座り込んでいた。  一瞬何が起きたのか分からなくなる。  が、じーんと頬から伝わる痛みに、母のやや赤くなった手を見て、僕は打たれたという事に気が付いた。 「Rちゃんが何をしたって言うの」  母は両目に一杯涙を為、震える声で言った。  だがそんな母の言葉よりも、母が僕を打ったという事の方が衝撃的であった。  怒ると黙って泣くだけの母。  怒鳴る事がなければ当然手を上げる事もない。  それに加えて父も穏やかな人であった為、僕は今までに殴られた事も、ビンタを食らった事も無かった。  人生初のビンタは、痛みよりもショックの方が大きかった。  人の悪口を平気で話す子に育ては覚えはないわと涙を流す母。  だが僕には理解でき無かった。  何故、僕が打たれなければならない。  悪いのはRの筈なのに。  Rの悪口を言って何が悪い?  母にとって、息子よりもRの方が大事なのだろうか。  Rの悪口はビンタに値するのだろうか。  Rのせいだ。  全てはRのせいだ。
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