六月の雫

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 金がなければ……  どうすれば五十万を手に入れる事が出来るのだろうか。  そもそも明日までに準備するのは無理な話である。  イライラしながら胸ポケットに手を突っ込む。  こんな時は“タバコ”を吸えば気分がマシになるのだ。  だが、ポケットの中には何も入っていなかった。  そう言えば、今日Kの所に行ったのも“タバコ”を貰う為だったな。  皮肉な事に貰えたのは脅しだけだったが。 「ああ、くそ。あのタバコがあれば……」  余計にイライラした為、僕は家に帰った。  リビングで母がベレー帽を編んでいた。  Rちゃんに似合いそうと微笑む母。  馬鹿だなと思いつつ、僕は無視する事にした。  母は本当に馬鹿だ。  信じている二人に裏切られている事に気付くどころか、そもそも二人を疑ってすらいない。  あの二人は一緒になって母を馬鹿にしているのかもしれないと言うのに……。  母を裏切った報いとして、僕の借金が父とRの所にいけば良いのにと、ふとそんな事を思った。 「あれ?」  思った直後に気付く。  あるじゃないか、そんな方法が。  父からもRからもお金を搾取する方法が。  妙案を思いついた為、僕はほくそ笑んだ。  その夜、僕は父が一人で書斎にいるタイミングを狙い、母にバレない様にそっと中に入っていった。 「父さん、頼みがある」  書類の点検をしていた父は手を止め、微笑んだ。 「なんだ?お前に頼み事をされるのは久しぶりだな」  何年ぶりだろうかと考える父をよそに、僕は例の写真を見せた。  父とRがキスをしている写真。 「金が欲しい。二十五万円」  父を見据えてそう言った。
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