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部屋に戻ってもやはり苛つきを抑える事はできなかった。
アイツはやはりどうしようもない悪人だ。
もう父とすら呼びたくない。
母はなぜアイツと結婚したのだろうか。
前まではお似合いだと思っていたが、アイツは母には釣り合わない。
母は完全にアイツに騙されている。
その一晩、僕はあれこれと考えてしまった為、ほぼ一睡も出来なかった。
朝、重い体を引きずってリビングに行くと、アイツと母は談笑していた。
僕の姿を見て、アイツは何事もなかった様におはようと微笑む。
何を考えているのか、僕には理解出来なかった。
母にだけ挨拶を返して自分の席に座る。
「お父さん今日から一週間くらい出張に出かけるから、挨拶くらい交わしなさい」
「え?出張?」
どう考えても怪しかった。
どうせRも……
「Rちゃんも一緒に行くの」
ほらねと僕は心の中で呟く。
浮気を隠す気ないのかと呆れて隣を見ると、アイツは微笑んで母の話に耳を傾けている。
馴染みのある、良い父親の姿をしていた。
何年間この姿に騙されてきたのだろう。
こう思えば母が騙されるのも仕方ない気がしてきた。
だとしたら今からでも遅くはない。
母に目を覚ませよう。
母には黙ってやると昨日言っていたが、母に不倫現場を見せないとまでは言っていない。
だから直接母に目撃してもらおうと僕は決めた。
父のあの余裕ぶった“仮面”を見ずに済むし、母も目を覚ます事ができる。
一石二鳥だ。
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