六月の雫

22/27
前へ
/27ページ
次へ
 部屋に戻ってもやはり苛つきを抑える事はできなかった。  アイツはやはりどうしようもない悪人だ。  もう父とすら呼びたくない。  母はなぜアイツと結婚したのだろうか。  前まではお似合いだと思っていたが、アイツは母には釣り合わない。  母は完全にアイツに騙されている。  その一晩、僕はあれこれと考えてしまった為、ほぼ一睡も出来なかった。  朝、重い体を引きずってリビングに行くと、アイツと母は談笑していた。  僕の姿を見て、アイツは何事もなかった様におはようと微笑む。  何を考えているのか、僕には理解出来なかった。  母にだけ挨拶を返して自分の席に座る。 「お父さん今日から一週間くらい出張に出かけるから、挨拶くらい交わしなさい」 「え?出張?」  どう考えても怪しかった。  どうせRも…… 「Rちゃんも一緒に行くの」  ほらねと僕は心の中で呟く。  浮気を隠す気ないのかと呆れて隣を見ると、アイツは微笑んで母の話に耳を傾けている。  馴染みのある、良いの姿をしていた。  何年間この姿に騙されてきたのだろう。  こう思えば母が騙されるのも仕方ない気がしてきた。  だとしたら今からでも遅くはない。  母に目を覚ませよう。  母には黙ってやると昨日言っていたが、母に不倫現場を見せないとまでは言っていない。  だから直接母に目撃してもらおうと僕は決めた。  父のあの余裕ぶった“仮面”を見ずに済むし、母も目を覚ます事ができる。  一石二鳥だ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加