六月の雫

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 Kに金を渡してから、僕は学校から抜け出してそっと家に戻った。  この頃の僕はまともに授業を受けていないし、教師もそれには慣れた。  始めこそは注意されたものの、ここのところ、気にも留めない。  おかげで気が楽だ。  母はもう仕事に出かけており、家には誰もいない。  僕はアイツが泊まる予定のホテルを突き止めようと、書斎に入った。  Rからアイツ宛の手紙を漁るが、ホテルの場所が書かれてあったものはなかった。  が、代わりにアイツがなぜ母を裏切ったのかを知る事が出来た。  母は名家育ちである上、美しく、才能があった。  それに対して昔のアイツは、顔だけで良く、俳優を目指すも才能は伴っていなかったという。  そんなアイツが名の知れた俳優になれたのは完全に母のおかげである。  母がアイツを好きになった為、アイツはそれを利用した。  母の歌に魅入られて、好きになったのを装い、歌姫である母の名声を利用したのだ。  Rとアイツは大学の時から付き合っていた。  アイツは母を利用して、有名になったらRと暮らすつもりでいたらしい。  皮肉な事に、毎日母を相手に良い夫を演じてきたおかげでアイツの演技力は上がったと、Rからの手紙の内容で知った。  今のアイツは母を利用しなくとも十分有名である。  ならば、浮気を隠そうとしなかったのはそろそろ母と別れるつもりだからだろうか。
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