六月の雫

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 別の手紙の中で、Rは母の事を馬鹿にしていた。  歌姫と持て囃されるが、あの歌声は大した事ない、と。  Rには母を(けな)す権利はない。  Rはそもそも母と同じ舞台にすら立つ事ができないというのに……。  他に手掛かりとなるものはあるかと僕が書斎を見渡した時、アイツの机の端にポンと置かれている茶色い封筒が視界に入った。  サイズと分厚さからして、中に何が入っているのかは何となく分かった。  恐らく金である。  ほら、当たり。  中に入っているのは数十万の金と、浮気の事は暫く母には言わないで欲しいと書かれたメモ。  いくら僕でもこの意味は分かる。  アイツは金で僕を買収しようとしているのだ。  我慢できずに僕はそのメモを破り捨てた。  破り捨てたメモをゴミ箱に入れようとした時、僕はゴミ箱の中に小さく丸まったメモ用紙が捨てられている事に気が付く。  そのメモ用紙を広げると、  六月十一日、夜九時、Yホテルで待ってる。  305号室に来て。                   ─Rより─  と書かれていた。  六月十一日、即ち今日の事である。 「ハハ」  乾いた笑いが口から漏れる。  メモはちょっと探せば見つかるところに捨てられている。  数十万の口止め料。  良く分かった。  アイツは如何に僕を見下しているのかを。  数十万の口止め料で僕は母に告げ口しないと、アイツは確信しているのだ。  僕は金で操られる、と。  確かに僕は金が欲しい。  だが、それはアイツの思い通りに動く事によって得る金ではない。  こんな感じで金を貰うくらいなら、何も貰えない方がマシである。  僕は金を元の場所に戻した。  そして、これ以上金に捉われない様、僕は賭博、“タバコ”を辞めようと決意した。  アイツに対抗する為の第一歩であった。
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