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連れて行かれた場所は賭場だった。
小さな暗い小屋で、数人の男がそれぞれ自身の持つ手札を睨む。
興奮で紅潮した顔に血走った目。
時々男達が舌打ちをしたり暴言をはいたりしたが、緊迫した雰囲気は崩れなかった。
賭博というものを間近で見たのはこれが初めてだった。
普段こんなものに関わる機会などないのもそうなのだが、父と母の仕事の関係で騒ぎになりそうな事を避けてきたのである。
初めて見るものに好奇心を持つのは人間の性だろう。
少しくらいならと、自分に言い聞かせてその場に残った。
何勝負かするとルール説明がなくとも遊び方が分かってくる。
勝負が進むに連れて賭けるお金も増していき、手札を取る速さも速くなる。
賭け事に勝った男は金を掴んで血眼で歓声を上げ、賭け事に負けた男はまるでこの世の終わりだと言わんばかりの顔をして奇声を上げる。
人をここまで狂わせる。
まさに地獄絵図だ。
今思えばその光景はかなり異様なものだったが、当時はあの場の雰囲気に呑まれてかつて感じた事がないほどの興奮を覚えた。
何しろここまで一喜一憂させられる勝負事を見た事がなかったのである。
横にいるKは何かに取り憑かれたような、正気を失った表情をしていた。
その表情を見て背筋がぞくっとしたが、おそらく自分も全く同じ表情をしていたのだろう。
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