六月の雫

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「……悪かったよ。次から気をつける」  感じ悪いと思いつつ、俯いたまま母の横を通り過ぎて家に入った。  自分の部屋に戻るとすぐさまポケットから金を出し、机の引き出しの一番奥に突っ込んだ。  こんな金は二度と触りたくなかったし、視界に入れたくもなかった。  服を脱ぎ捨て体を洗う。  自分の体すら汚い感じがして、肌が赤くなってヒリヒリするまで何度も何度も擦った。  そしていつもより早くベットに入り、今日の事を忘れるべく眠りについた。  翌朝、いつもの時間に起き、身支度をした。  母も何事もなかった様に朝食の準備をしていたがまぶたが少し赤くなっていた。 「母さん、おはよう」 「おはよう」  いつもの様に微笑む母を見て一種の気まずさ、きまりの悪さを感じた。 「父さんは?」  下を向いてさりげなく聞くと、母は嬉しそうに喋る。 「もう仕事に行っちゃったわ。なんかね、映画のオーディションに応募したら主役に選ばれたんだって」 「ふーん」 「それにね、何とRちゃんも同じ映画に出る事になったのよ」 「R姉さんも?」  思わず顔を上げる。  Rは父さんの後輩だ。  人懐っこい性格で、母のファンでもあったことから母と仲良くなり、よくうちに遊びに来ていた。  来るたびにお姉ちゃんお姉ちゃんと呼んでは母にべったり。  母も本当の妹の様に可愛がった。  そんなRは僕と結構歳の差があったが、小さい頃からよく遊びに付き合ってもらった為、僕にとっては姉の様な存在だ。
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