六月の雫

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 兄ちゃん……?  昨日の大勝ちしていた男か…… 「お前なら直ぐに強くなれるって、才能あるって、昨日兄ちゃんが言ってた」  Kの真剣な表情を見て、不覚にも心を躍らされた。  才能があるなどと一度も言われた事がなかったのだ。  僕は天才と呼ばれる人達に囲まれて育った。  父も母も完璧な人間だ。  だから僕もその様になりたかったし、周りからも期待された。  だが僕には才能がない。  成績は中の下。  ひょろっとした体は運動には不向き。  絵画は独特だとしか評価された事がなく、この評価も言葉選びに悩んだ末に出てきた物だ。  歌を歌えば鴉の声だと笑われ、演劇を試みるも大根役者と言われて終わる。  お世辞でも才能があるとは言えない有様だ。  どんな才能でもいい。  才能が欲しい、ずっとそう思っていた。 「本当に才能があると思うか……?」  おそるおそるそう聞く。  Kは首を縦に振った。 「本当に……?」 「ああ」  昨日、もう賭博などしないと決めたのに、心が揺らぐ。  違法だしばれたら父と母に迷惑をかける。  だが才能があるという響きはあまりにも魅惑的だった。 「今日は用事がある。明日ならいってやらないこともない」  僕は、弱い。 「分かった、明日放課後な」  Kは笑って教室に入って行った。
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