7人が本棚に入れています
本棚に追加
「──作戦名は、《地獄の天使》。理解はできたか!」
ナタリアから少し離れた位置の隊長は通る声で告げる。それは圧倒的に不利な状況を覆す魔法の作戦。暗殺人形を敵地に送り、敵の指揮系統を破壊する、文字通り頭狩りだ。
停戦が切れるのは、あと数分後。ナタリアはふっと息を吐いた。敵陣に単身で切り込むことには慣れている。行けと命令されるのなら、飛び出すだけだ。
緩やかに時間は流れる。刻々と高まる戦の前の緊張感、誰かがごくりと唾を呑み込む音がした。青い花だけが変わらずに揺れていた。
「停戦無効まで、あと30秒」
カウントダウンが始まる。ナタリアは手の中の銃を握り、暴発防止の安全装置を解除した。恐ろしいほどに冷静な思考で、ナタリアは突撃の算段をつける。琥珀色のガラスのような瞳が青い花を写す。
「突撃っ!」
怒鳴り声が沈黙を破った。ナタリアは同時に走り出す。赤茶色の髪がなびく。髪を纏める黒いリボンが一拍遅れて動いた。
青い花の海に飛び込む。千切れた花弁が宙を舞って、風に解ける。体勢を可能な限り低くし、ジグザグと駆けて共和国の陣地に接近する。
最初のコメントを投稿しよう!