ep.000 暗殺人形

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 陶磁器のような白い肌、赤みを帯びた琥珀色の瞳に、スラリとした身体つき。非の打ち所のない、冷たい美しさを秘めた完璧な少女だ。まだ少女の顔つきがどことなくあどけない所を見れば、今以上に彼女は美しくなるのだろうと予想もつく。  だが、同時に人は彼女に違和感を覚える筈だ。  少女の端正な顔は何一つ感情を映さない、人形のようなものだった。実際、感情そのものを持たないのかもしれない。  ただ、少女には必要がなかった。自分の存在意義が感情を動かすことではないと理解していた。  少女に求められているのは、忠実に命令を遂行することだけ。それ以外のものは全て、少女には必要のないものだ。  軽く爪先を動かして進行方向を変える。  向かう場所に人の気配はない。  ごく自然な動作で木の扉を開けた少女は、するりと中に入り込んだ。外の薄寒い空気と違い、ぬるりとした生暖かい空気感に、微かに眉を動かす。夜に慣れた瞳に映るのは彼女の標的(ターゲット)の部屋だった。  無造作に脱ぎ捨てられた白色の軍服が金をあしらった椅子に引っかかっている。報告書が木造りのテーブルに散乱し、空いた酒の瓶が上に転がっていた。
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