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「いま繁忙期だから、その日は会社に泊まって帰れないかもしれないわね」
母は聞こえるように独り言を言った。
その嘘を息子に見抜かれていると気付かない浅慮さに、悠人は呆れた――その夜、一体何してるんだか。
口には出さず、「頑張って」と言って悠人はひとりで卒業式に参加した。
母には、大学受験はすべて不合格だったと伝えた。
進路もあてもない。そのうえ、今日をもって高校生という枠からも外れて、一層行き場のない不安と苛立ちが襲いかかっていた。
いつもそうだ。この18年間、悠人の心はどこか世間と隔絶していた。
例えるなら、自分という個体だけ世界で学名が付けられていないような感覚とでもいうだろうか。
高校に通っても、この3年間で自分の存在意義を教えてくれる授業はひとつもなかった。
回想して虚しさに胸を突かれた悠人は、卒業証書の筒に爪を立てた。
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