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「高校生は帰らないとね」 「――もう高校生じゃないです」 思ったよりはっきりと、悠人は抗議していた。 男の目線が、悠人の手にある卒業証書の筒に落とされる。 「じゃあ、今日から大人だ」 またしても悪戯っぽく男は笑った。 「大人なら帰らなくていい。――むしろ、大人の世界はこの時間から始まるからね」 「は…?」 「俺が今日、大人にしてあげるよ」 男の手が重なってきて、濡れた悠人の手を握る。 通りすがりの、名前も住所も連絡先も知らない年上の男。そんな人に意味の分からないことを言われ、悠人は警戒心を持ち立ち上がった。 「あの、あなた一体……」 誰、と言いかけた悠人の視線は一点で釘付けになった。 路地からわずかに見える大通りに、見知った顔があった――母親である。その隣には、見知らぬ若い男の姿。 相合傘をしながら2人が入っていった方向を目で追うと、両側がラブホテルで固められたホテル街だった。
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