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眼鏡の奥の切れ長な目が、下がったところなどついぞ見たことがない。
ただ、身を包む喪服が妙な色香を漂わせていた。
見つめたところで彼の顔色が変わるわけでもない。
心の中で小さくため息をつき、添えてあったペンを取った。
「……わかりました」
淡々と目の前の書類を埋めていく。
この生活ももう終わりなんだ。
思ったよりもよかったんだけれどな。
でも、仕方ないよね。
そういう約束だったんだし。
「じゃあ、これは僕が提出しておく。
引っ越しは急がなくていい。
新居の都合もあるだろうし。
あれなら僕が準備させてもらう」
そうか、離婚したんだから、もうここにはいられないのか。
「いえ、そこまでやってもらうわけにはいかないので。
実家においてもらえると思うので、連絡して今週中には出ていきます」
「そうか」
彼の返事は短く、それだけだった。
「じゃあ、私は先に休ませてもらいますね。
なんか、疲れちゃって」
笑って誤魔化し、その場を去ろうとする。
私の気持ちを彼に、知られてはいけない。
「待て」
「え?」
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