2542人が本棚に入れています
本棚に追加
とりあえず、食べてくれると言った。
それだけで一歩前進だ。
そのうち、着替えた宣利さんがダイニングに来た。
「お口にあうかわかりませんが」
ご飯をよそい、温めた料理と一緒に並べる。
椅子に座った彼は、無言で食べ始めた。
私も前に座り、食事を口に運ぶ。
……き、気まずい。
誘っておいてなんだが、無言の食卓は精神に堪える。
「その。
お味は、どうですか?
薄かったり濃かったりしないですか」
ぴたりと箸が止まり、じっと彼が私の顔を見る。
けれど少ししてまた、食べだした。
「え、えっと……」
それ以上、尋ねる勇気もなく、もそもそと私も食事を続けた。
「ごちそうさま」
食べ終わった宣利さんが、丁寧に手をあわせる。
「美味しかった」
椅子を立った彼は手早く食器を流しに下げ、ひと言そう言って去っていった。
「……へ?」
ひとりになり、間抜けにも変な声が出る。
渋々、食事をしてくれたのだと思っていた。
しかし、「美味しかった」って?
ただの社交辞令?
それとも喜んでくれた?
最初のコメントを投稿しよう!