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手を掴まれ、宣利さんを振り返る。
「最後に君を抱いてもいいだろうか」
眼鏡の向こうから彼が私を見つめていた。
結婚してから一度も、そういう営みはなかった。
離婚が前提の仕方ない結婚だから、というのはわかる。
それでも手を出してこないのはやっぱり、やせっぽちで顔はそばかすだらけ、お世辞にも美人とはいえない私は女として魅力がないんだろうなと若干、落ち込みもした。
なんといってもつるっぺただし。
なのに、〝抱いてもいいか〟とは?
あれか、喪服マジックか。
「えっと……。
はい」
なんとなく気恥ずかしくて目を逸らす。
宣利さんがどんなつもりかわからないが、それでも。
――最後に想い出を作らせてもらってもいいよね。
彼の寝室で、ベッドに押し倒された。
「いいんだな」
「はい」
最後の確認をし、眼鏡を置いた彼が私に覆い被さってくる。
すぐに唇が重なった。
……私、宣利さんとキス、してるんだ。
それはまるで夢のようで、まったく現実感がない。
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