第一章 短い結婚生活

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でも、なんとなく私を凄く気遣ってくれている感じがする。 もしかして私と同じように、私がこの結婚は凄く嫌で、自分の顔を見るのも不快なんじゃとか思って部屋に閉じ籠もっているんじゃないかとか考えてしまう。 まあ、彼の場合それよりも、部屋で仕事やなんかいろいろするほうが好きって可能性が高いけれど。 少しずつだけれど宣利さんを知り、生活は続いていく。 彼は冷たく見えるが、よくまわりを気遣う誠実な人だと知った。 私は彼に惹かれはじめているんだと思う。 ……そのうち、宣利さんを好きになるのかな。 そんな予感がある。 ――でも。 『曾祖父が先ほど、息を引き取った』 知らせを聞き、滑り落ちていきそうになった携帯を慌てて掴み直した。 『悪いが、喪服を持ってきてくれ。 場所は……』 「ああ、はい」 我に返り、彼の指示をメモする。 ……とうとう、か。 永遠に来なければいいと思っていた。 しかし桜が咲いた頃から容体が悪化し、夏まで持つかと言われていた。 頼まれたものを集め、自分も喪服に着替えて倉森の本邸へと向かう。
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