2527人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなの、彼に迷惑をかけるだけだってわかっていた。
もし、そうなったとしても彼に告げるつもりもない。
「そういえば……」
達するとき、宣利さんは私の名を呼んでいた。
プライベートで、名前でよばれるのは初めてだ。
いつもは〝君〟なのに。
なんだったんだろう、あれ?
一晩明けて実家に連絡した。
離婚したと聞いてもなにも言わなかった父は、事情を察していたのかもしれない。
引っ越しは宣利さんがお任せパックを手配してくれた。
最後までお手間を取らせて本当に申し訳ない。
引っ越しの日、宣利さんはいなかった。
「……見送り、してくれないんだ」
わかっていたはずなのに、落ち込んでいる自分がいる。
宣利さんにとって仕事が一番、私は……何番だったんだろう?
離婚してしまった私なんてもはや、ランキングの対象ですらないんだろうけれど。
「おい、行くぞ」
「あ、うん!」
迎えに来てくれた父の車に乗る。
「バイバイ」
バイバイ、一年間だけの我が家。
バイバイ、宣利さん。
もうここに戻ってくることも、会うこともないだろうけれど。
流れていく窓の外をぼーっと眺めながら、この一年――出会いから一年半の生活を思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!