第一章 短い結婚生活

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詳しい話を聞いてから、だが。 父が社長をしている外食チェーン『エールタンジュ』グループは戦後、今は亡き曾祖父がおこなった炊き出しから出発している。 当時、我が家は炭鉱経営を核とする財閥家だった。 しかし曾祖父は食うや食わずの人々に心を痛め、私財を投げ打って炊き出しをおこなう。 人々を笑顔にしたい。 その一心だった。 その後、時代の流れで炭鉱も閉鎖し、僅かばかり残った財で曾祖父は食堂を始める。 そこから順調に会社は成長し、今では外食産業でも中核どころになっていた。 それでも曾祖父の理念、「人々をお腹いっぱいにして笑顔にしたい」 は受け継がれ、今でも月二回のホームレスの炊き出しや、子ども食堂の支援などおこなっている。 私はそんな会社を誇りに思っていたし、曾祖父の理念を受け継ぐ父を尊敬していた。 しかしここ数年、物価高などで経営が悪化してかなり逼迫した状況なのは知っていた。 私になにかできないか考えていたところだったので、結婚もありだ。 ダイニングへ行くと美味しそうな匂いがしていた。 「もうできるからー」 「ありがとー」
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