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第0章 予定どおりの離婚
「離婚しよう」
彼の曾祖父の葬儀が終わり家に帰ってきた途端、彼は私をリビングに留めて目の前にそれを置いた。
……やっぱり、そうなるんだ。
僅かに失望しているのはどこか、期待をしていたんだろうか。
そんなの、無駄なのに。
六つ年上の彼――倉森宣利さんと結婚したのは一年ほど前の話だ。
決まった当初からこの結婚は老い先短い曾祖父を満足させるだけのものなので、曾祖父が亡くなれば別れるとは言われていた。
私もそれに異論はなかったのだ。
しかし一緒に生活していくうちに、宣利さんに惹かれ始めていた。
もしかしたら宣利さんもそうなんじゃないだろうか。
そんなふうに思いもした。
けれど現実は、離婚届という形で目の前に現れている。
じっと目の前に座る彼を見つめる。
センター分けにした前髪を横から後ろに流したオールバックはこんな時間でも乱れはなく、お堅い彼のようだった。
面長な顔にのるオーバルの眼鏡は一見、彼を柔和に見せているが、しかしそのシルバーのフレームと同じく冷たい人だ。
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