1 黒猫クロスと大黒さん

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1 黒猫クロスと大黒さん

 「ニャァァーオゥ」  掃き清められたお堂の庭で黒猫が鳴いた。  作務衣、頭に白手ぬぐいを巻いた男性が、白い雑巾を手にし、堂の奥から顔を出した。  黒猫を見ると、優しい笑顔を見せて言った。 「やぁ、クロス。おかえり。廊下の掃除は終わっているし、君専用の座布団も洗濯して干したからフッカフカ。昼寝にはもってこいだ。さぁ、おいで」 「ンニャ」  手を広げて黒猫を抱き上げようとしたが、クロスと呼ばれた黒猫は、スタスタと通り過ぎ、自ら堂の廊下に置いてある座布団の上に丸まった。  小さな口をいっぱいに開いて、欠伸。  そのまま目を瞑り、昼寝モードに入るのを男性はにこやかに見つめた。  その時庭奥の、枝木がガサガサと音を立てて揺れる。  木の間から姿を現したのは、青白い顔をした細身の女性だった。  女性は作務衣姿の男性を目にすると、きまりが悪そうに両手を下に組み合わせ、俯く。  作務衣姿の男性は女性を見て、穏やかに微笑んだ。 「クロスが連れてきたお客様ですかな? 私はこの寺の住職、大黒と申します。ようこそ、黒猫堂へ」   座布団で丸まって眠っていたクロスは、薄目を開けて大黒さんと女性を見やると、小さな欠伸を一つして、また眠り始めた。  
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