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しかたなく。しかたな~く、「あのお、竹ぼうき貸してもらえませんか?」と聞いてみた。おのずと声は小さくなる。
「はあん? あんたんちはそれだけでっかい図体して竹ぼうきもないのかい?」とか何とか、きっとからんでくる――
「あらま、アサガオが巻きついちゃったんだねえ」
けれど、そう言ったばあさんの声は意外と優しかった。そして無愛想に竹ぼうきを突き出してきた。
あらま。とこっちも言いたくなったけど、小さく会釈して受け取った。
ばあさんちは、そういえばいつもきれいに花が咲いている。花が好きなんだなあ、と今初めて知った。
それで次の日も、今度はこっちから何も言わないのに、「アサガオどうなったかい?」と垣根越しにのぞき込んできた。
寝ぼけ眼のパジャマで歯みがきしていたあたし、あわててアサガオを見てみると、そのツルは竹ぼうきを通り越して次なるどこかを探しているようにキョロキョロしている。
――キョロキョロ? え?
あたしは急いでいったん家の中に引っ込んで――何か棒きれみたいなやつ、細くて長い――これでいっか、と、布団たたきを持ち出した。
差し出してみれば、とたんにアサガオはしゅるんと巻きついて……その先っぽがどこかを指しているかのように真横に止まった。
ばあさんの、あっけにとられた顔。いや、あたしもたぶん同じ顔をしていたと思う。
どこへ? アサガオ、どこへ伸びたがっている?
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