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Ⅶ.始まりの朝日
そう言われた時、視界がぱあっと晴れた気がした。
ずっと自分の視野角の端っこにあった黒い塊が、何かを隠したいかのように邪魔をしていた。なのに今の今まで、邪魔をされていたことにすら気が付いていなかった。
ビルの下を覗き込んだ。
相変わらずの黒だった。でもずっと下には街灯があるし、民家の灯りだってあった。そんな小さな光を覆い隠すみたいに、自分の中の何かが邪魔をしていたんだ。
「……俺、生きて何かを、出来ますかね……」
尾藤さんはグッと俺の身体を手繰り寄せながら言った。
「生きていないと、何も出来ないよ」
俺は自分の目から、涙が流れていることに気が付いた。どういう涙なのかは全く分からない。どこか安堵するような、それでいて軽蔑するような、不思議な温かさを頬で感じた。
「ありがとう……ございます。俺、やります。やってから、死にます」
「そうだね、やってから駄目だったら、今度こそ手を繋いで飛ぼうか!」
今日終わるはずだった二つの人生が、二つのフィナーレが、奇跡的な確率で結びついて、その結果交わった。いや交わっただけでなく、相乗効果を生んだのだ。終わるはずだったものが終わらなかった。始まった。
それは偶然ではない。
「フィナーレ×フィナーレ」の、どちらかが「0」であったならば、二人とも今日終わっていた。二人とも信じている「1以上の何か」があったから、その演算結果は0より大きくなって、二人とも前を向いて歩き始めたんだ。
俺はずっと、人間が生きる意味を探していた。高尚な意義を探していた。
でもそんなものは、別に必要なかったんだ。
たった一つでもあればいい。大切な何かが、あればいいんだ。
「……俺の名前、朝日リョウジって言います」
「朝日くんか。今の僕達にとって、この上なく縁起の良い名前だ」
すると真っ黒く沈んでいた風景から、一筋の光が差してきた。
希望という名の朝日が俺達二人を祝福してくれている。そんな利己的な感情を覚えるくらい、俺は前を向いていた。
■おわり■
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