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Ⅱ.最期の出会い
ビル風に動じなかった俺でも、これには流石に驚いた。
一度目をこすってみたが、見れば見るほど人間がいる。もしかすると死に近付いたせいで、見えてはならないものが見えているのだろうか。
公園のベンチという訳では無い、落ちれば終わりのビルの屋上のフェンスの外側での話だ。簡単に人と人とが出会っていい場所ではない。
気になった俺は立ち上がり、ゆっくりとその人影に近付いていく。
俺にもまだこんな好奇心めいたものがあるのだなと、顔には自嘲気味な笑みを浮かべていた。傍目にはさぞ不気味だろう。
近付いていくうちに、徐々にその姿が見えてきた。
男性だ。俺よりも少し上だろうか、三十は超えていそうだ。足を交互にブラブラとさせている姿を見ると、俺と同様に恐怖を感じるフェーズは超えてしまっているらしい。同じ穴の狢だから分かる、この人は今日、死ぬ気だ。
「あの」
気がつくと声をかけていた。男は肩を震わせながら声を上げた。
「え”!?」
「あの、驚かせてすみません、人間です」
なぜそんな自己紹介をしたのか分からないが、効果は覿面だったようで、男はずれた眼鏡を人差し指で戻しながら、冷静に発する。
「こんなところで……なにを?」
「いや、まあ、多分目的は同じかと」
「じゃあ、君もここから?」
「はい、その予定です」
男は一度目を丸くしたが、すぐに柔和な表情となり、自分の隣を二度三度叩いてみせた。
「少し、話をしないか?」
「そう……ですね」
こんな場所で出会うくらいには追い詰められている二人だ。この会話で何かが変わることはないだろうが、最期の会話というのも乙なのではないかと感じられた。俺は男の隣に腰掛けた。
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