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Ⅳ.最期の驚き
下階まで響くんじゃあなかろうかという大笑いだ。でもどこか無理やり大きい声で笑っているような、下手くそな声優のようでもあった。
「いやあ、言ってくれるね。嬉しいよ、逆に」
「? どういうことです?」
「アドミン・サーガ3の開発責任者、僕なんだよ」
「え”!?」
今度は俺が肩を震わせて叫声を張り上げた。
「あの……すみません、こき下ろしてしまって……」
「いいや、いいんだ。その通りだもの。だけど言い訳させてもらうと、リアルタイムバトル導入はタイパタイパうるさいプロデューサーのせい。そんで育成システム改悪はテーブル管理のスマート化とかいう名目のせい。仲間システムの縮小は、開発リソース節約のせい。要するに、どれも僕の意図するものじゃあ無かったって訳さ」
部分部分、理解出来ない単語が混ざってはいたが、その口調から漏れ伝わる遣る瀬無さだけは、痛いほど伝わってきた。それに少し嬉しくもあった。俺の大好きだったアドサガの作り手が「僕の意図するものじゃない」と、今作を否定してくれたからだ。
そこで俺は、とある名前を思い出した。
「あの……もしかして、尾藤コウシロウさん、ですか?」
「へえ、僕の名前を知ってるの? 結構コアなファンだね」
「はい、アドサガ1のこと思い出して。元が同人ゲーでしたよね。そこのクレジットのあらゆる役割に、尾藤さんの名前がありましたから」
「嬉しいなあ。同人ゲーのバージョンまでプレイしてくれてるなんて。じゃあ、アドサガで一番の名作っていうと?」
「アドサガ1でしょうね。製品版の方の」
「だよね。同人版にやりたいこと詰め込みまくったのが製品版なんだ。あの頃は大手にスカウトされてIPごとそっちに移ってさ、人生のピークだったなあ」
尾藤さんは遠くを見つめながら満面の笑みで、そう語ってくれた。
その目に映るのは真っ黒い世界のはずなのに。そんなことを微塵も感じさせなかった。
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