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Ⅵ.始まりの時
俺は寝そべって空を見上げたまま、自分の理想について語った。
「まず一番はバトルシステムを戻すこと。それはマストですね。あとはもう育成システムの自由さだけ増えれば文句ないです」
「意外だな。仲間システムや、映像美なんかは重視しないのかい?」
「育成が自由になれば、自分だけのキャラに育てられますから、最悪仲間の選択肢は減っていてもいいかなって。それにアドサガに映像美なんていらないっすよ。個人的にはテキストベースでもいいくらいです。それくらい、ゲームの中身が面白い」
それを聞くと、尾藤さんはスッと立ち上がった。そして、片方の手でフェンスをガシッと握った。
「全くの同感だ。そこなんだよ、僕にとってのゲーム作りって。今の会社はとにかく映像を綺麗にとか、そのくせ人員を節約しろとか、作りをシンプルにしろとか。ゲーム本質の面白さが失われている。作っている僕が楽しくないんだ、アドサガファンが楽しいワケがない」
そこまで言うと、尾藤さんはフェンスを掴んでいる方と反対の手を、俺に差し出してきた。
「君さ、僕と一緒に、1からゲームを作ってみないか?」
「は? 俺がですか」
「ああ。君みたいに、同じ方向を見られる人と、やってみたいんだ」
「俺、素人ですよ。何の知識もない」
「大丈夫。僕ら死ぬ気だったんだ。死ぬ気で教えるよ。死ぬ気になれば覚えられるよ」
「なんすか、それ」
口ではそう返したが、その時、自分がとんでもないところに寝そべっていることに気が付いた。慌てて身を翻しながら、尾藤さんの手を取った。
「……手、掴んでくれたね」
「いやすみません、怖かったんで」
「僕もさ。君とゲームを作りたくなったら、怖くなった」
「じゃあ……俺も、尾藤さんと、やりたいってことっすかね」
尾藤さんは、満面の笑みで頷いた。さっき見せてくれた笑顔よりも、目をキラキラと輝かせながら。
「ああ。僕ら今日、死んだんだ。今から新しく、生きようよ」
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