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「その子は、自分に才能がないってことに、小学生で気づいちゃったんだってさ」
暗幕を閉めた音楽室。わざとらしく懐中電灯で顎の下から照らしながら、金管バンドの友達である紗理奈は言った。私と同じ六年生。彼女は、怖い話が好きなことで有名だった。
「もちろん、客観的に見るとAちゃんは小学生として見れば十分実力があったはず。ただ、お姉ちゃんが凄すぎたってだけ。……そりゃ、コンクールで受賞するようなお姉ちゃんと比べちゃったら、ねえ?」
その時、私、紗理奈、風香の三人で、こっそり第二音楽室で百物語モドキをしていたのだった。私達はみんな同じ金管バンドクラブに所属する六年生。今日は練習がない日で、こっそり音楽室に忍び込んで“学校に纏わる怖い話”大会をしていたのだった。
そんな中、紗理奈が始めたのが“血染めのピアノ”の話。
ピアノの天才少女と謳われた女の子Aちゃんが、それを上回る才女だった姉との差に絶望し、命を絶ってしまうという話だったのである。
「Aちゃんは、どうせお姉ちゃんに勝てないならと……夜の学校に忍び込んでね?」
ちらり、と彼女は己の後ろを振り返った。そこには、見事な黒々としたグランドピアノの姿がある。いつからあるのか、かなり年季が入ったピアノだった。
「そこにあったグランドピアノの鍵盤に左手を置いて、力いっぱい蓋をしめて……そう、自分で自分の左手に叩きつけて、ぐちゃぐちゃにしてしまったんだって!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「そうそう、想像以上に痛かったと思うわけ。結果として、彼女は左手を複雑骨折して……しかも解放骨折だったから危険な血管も傷つけてて、大量出血してね?しかも夜中にこっそり忍び込んだものだから誰も気づいてないわけ。翌日まで誰にも見つからず、ひっそりと血まみれで息を引き取ってたっていうの。当然、ピアノの鍵盤は血で真っ赤に染まっていて……彼女の怨念が沁みついてしまった。該当のピアノは修理されたんだけど、それ以来……鍵盤の間から、血がしみだしてくることがあるんだって!」
「ひえええっ……」
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