こっけん、こっけん。

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 何それ怖い。そう思ったのは私だけじゃなかったようだ。やめてよお、と風香が悲鳴を上げる。 「紗理奈ちゃんのばかー!怖くてピアノ触れなくなっちゃうじゃん!ていうか風香、今日一人で寝るのもできないかもおおおおお!」 「……風香あんたね、もう六年生なんだからママとパパと一緒に寝たいとか言うのマジでどうなのよ。いい加減大人になんなさいよ」 「大人じゃない!小学生はまだ子供でOKでしょお!?電車も子供料金で乗れるうううううう!」 「はいはいはいはい、風香チャンはお子様ですねー、よしよし」  怖い話が大好きな紗理奈と苦手な風香。苦手なのに怖いもの見たさ聞きたさで紗理奈の話を聞き違っては、いっつも最終的に紗理奈に慰められる風香――というのが恒例だった。  なんだかんだでいいコンビなのよな、と私は苦笑いしてしまう。人間、真逆の方が仲良くやっていけるものなのかもしれない。 「血がしみだしてくるだけならいいじゃん。呪われるとかじゃないんでしょ?」  私は苦笑いしながら告げた。 「呪いの曲が鳴ってるのを偶然耳にしたら即死、とかいうトラップ系の怪談もあるんだし。そういうのに比べたら全然怖くないよ、風香」 「え、なに?何なのいちごちゃん!?もっと怖い怪談あるの!?ぴ、ピアノって、駅前の街角ピアノもあるし、楽器屋さんにもあるし、友達の家にもあるしで結構避けられないものなんだけどぉ!?」  慰めるどころか逆効果だったらしい。ピアノ怖いピアノ怖いピアノ怖い!とさながらbotのようになってしまう風香。 「あーよしよし。……あたしは、ピアノよりも人間が怖いと思ったけどね」  そんな風香の背中をさすりながら、紗理奈が苦笑したのだった。 「姉への恨みこめて、小学生がそんな風に自分の手を処刑しようとして死ぬ、とかそういうこと考えるニンゲンのが怖いわ」  一理あるかもしれない。  私は彼女の後ろに見えるグランドピアノの目をやった。あの蓋に手を挟んで死ぬ。どれほど痛くて、恐ろしかったことだろうか。
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