こっけん、こっけん。

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 ***  結論を言うのであれば。  そもそも、あの小学校に、ピアノは二台も存在してはいなかった。第二音楽室にピアノなんかないと、紗理奈も風香も、それ以外の友達も先生さえ口をそろえたのだ。私には、小学校一年生の時からあのピアノが見えていたというのに。よくよく考えれば、紗理奈から怪談を聞いた時に気付くべきだったのだ。 『そこにあったグランドピアノの鍵盤に左手を置いて、力いっぱい蓋をしめて……そう、自分で自分の左手に叩きつけて、ぐちゃぐちゃにしてしまったんだって!』  ピアノが今でも存在して見えているならば、“そこにあった”なんて過去形で話すはずがない。  多分、怪談と、それから私がピアノに触ったことでなんかのトリガーを引いてしまったということなのだろう。  それで、だ。  私もなんとなくピアノが怖くなって、それ以来ピアノを避けて通ってはいるのだけれど――それなのに妙に、ピアノが視界に入ってくるようになってしまって困っていたりする。  チャンネルを変えたらピアノの通販CMをやってたりとか、YouTubeを開いたらピアノを弾く動画が妙におすすめに出てくるとか。別に、それだけなら何も問題ない。おかしいのは――そういうCМや動画を見ると、決まってアレが発生しているのだ。  そう、どの映像に出てくるピアノも、必ずド♯の黒鍵が引っ込んでいる。  美術館の絵に描かれたピアノもそう。漫画や小説の挿絵でさえそう。まるで何かに呪われているように、私の目にだけ黒鍵が引っ込んでいるように見えるのだ。  恐らく、ナニかがそこにいて、今でも私に訴えているのだろう。――元に戻して、自分をそこから引っ張り出して、と。それが、怪談に登場した女の子の霊なのかはわからない。  それが出てきた時、何が起きてしまうのかも。  まあ、そういうわけだから、君も気を付けてほしい。  だって君、同居の妹さんがさ――家でピアノの先生、やってるんでしょ?
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