一杯のカクテル

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「新商品なんですか?」 「いや、これは裏メニューです」 「こんなにオシャレで美味しいのに?」  裏メニューの定義なんて正式にはないのでお店によって判断は分かれる。しかし、一般的に裏メニューといえば、従業員の賄いだったり、常連客へのサービス提供品がほとんどである。  裏メニューにする理由としては、余った食材の処分を兼ねていたり、安定供給が困難だったり、収益率が悪いなどが挙げられる。ところがこのスタードリームに限っていえば、そのような負の要素は見当たらない。  だとすれば、スタードリームを裏メニューにして隠す理由はなんだろう。  アルコールでほんやりとした思考の中で私が導き出した答えは『個人的な事情』というものだった。  つまり、黒崎さん個人にとっての特別なメニューというわけだ。  それをあえて私に注文させて作った。話の糸口にするために、である。  まだモダンタイムスに通うようになって日の浅い私ではあったけれど、非常に興味深かった。 「聞かせてもらえるの? このカクテルの誕生秘話を」 「察しが良いですね」 「それはお互い様でしょう?」  私は悪戯っぽく微笑んだ。
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