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学園祭で黒崎たちのクラスの催し物は好評だった。
シェイカーの中で複数のドリンクと氷が混ざり合って生じる音が良い。振り方は人によって違っていたが、本番前にみんなで練習したこともあって、それぞれ様になっていた。
「炭酸は振るなよ。大惨事になるぞ」
担任教師も面白そうに見守っていた。
「オレンジカルピス」
「カルピスグレープ」
「トニックアップル」
筋肉痛になりそうである。だけど注文は次々と飛んでくる。
「ちょっと休憩させて」
黒崎は菊池に後を頼むと、黒幕で仕切るようにして確保してあるバックヤードに入った。
「お疲れ」
そこでは先に青山剛志が休んでいた。
「大盛況だな」
「こんなにお客さんが来てくれるなんて思っていなかったよ」
「そうだな」
だけど満足ではあった。閑散として暇を持て余しているよりはいい。
「飲むか?」
「ありがと」
青山は自分が飲んでいるものと同じ飲み物を手際よく作って黒崎に手渡した。
何と何を混ぜたのか分からなかったが、とりあえず飲んでみた。
スパイシーで後を引くような辛味がある。でもそれを優しく包んでくれるジューシーさ。これはグレープフルーツの酸味だろう。
「これ、美味いな」
「だろ? さっきこの組み合わせに気づいたんだ」
一つはグレープフルーツジュースで、もう一つは辛口すぎて使えないと判断されたジンジャーエールだった。
「普通の甘いジンジャーエールを使っても、この美味さは出なかったと思うんだ」
「辛口だから酸味と合う?」
確かにそうだった。不思議なものである。
子ども向けの味ではない。辛味と酸味を楽しめる大人向けの味だろう。
「じゃ、お先に」
十分に休んだのか、青山は接客に戻っていった。
黒崎は何度も味を確かめながらジンジャーエールとグレープフルーツジュースのミックスを飲み干して休憩を終えた。
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