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地面に下ろしたはずの足が空を蹴り、ガクンと体ごと落ちていく。けれどそれは一瞬で、セレナの身体は一メートルほど斜面を滑って止まった。ちょっとした段差になっていたところを、魔法に集中するあまり気づかず踏み外してしまったようだ。
「いたたたた……崖じゃなくてよかったぁ……あっ! イシャイラズ!」
なんと、すぐ目の前にずっと探していた薬草が生えていたのだ。多肉植物のそれは、株をいくつにも増やして立派に自生していた。
「これは見つからないわけだ。よし、葉っぱを一枚もらってみんなと合流しよう」
立ち上がろうと足に力を入れた時、痛みが走りセレナは眉をしかめる。踏み外した左足のズボンの裾をめくると、なにか鋭利なもので擦ってしまったのか、傷ができて出血している。傷はそこまで深くなさそうだったので、セレナはハンカチでそこを縛って止血しておいた。
「これでよし」
(学園に着いてから医務室に行って手当してもらえばいいわ)
少し痛みを我慢すれば問題なく歩けたため、イシャイラズの葉を取ってみんなとの合流場所へと急いだ。
無事にみんなと合流したセレナは、イシャイラズを見つけたことを報告して森の出口へと向かうも、歩いているうちに左足首の痛みが強くなっていく。
グループのみんなには、余計な心配をかけてはいけないと思って、怪我をしたことは伝えていない。それに今ここで怪我を訴えれば、みんなに迷惑がかかってしまう。それだけは避けたかった。
(あと少しの辛抱よ……)
自分に言い聞かせて、セレナはどうにか歩いて行く。足が地に着くたび、脈を打つたびにずっきんずっきんと痛みがセレナを襲う。強まるばかりの痛みに次第に脂汗が滲みだした。
どのくらい歩いただろうか、ようやく集合場所である森の入口にたどり着くと、そこにはすでに課題を終えたグループが集まってにぎやかだった。
「どうやら最下位委は免れたようだね」
マルセルが肩をすくめて言った。
「カイルが見つけてくれたおかげだな」
イザックがそう言い、セレナの肩を抱く。のしかかるように体を預けられて、庇っていた左足に体重がかかる。そのあまりの痛みに体がよろけてしまった。
「いっ……」
「うおっ、おい、カイル」
(倒れる……っ)
思わず目を瞑ったセレナだったが、倒れかけた体はしっかりと誰かの腕で受け止められていた。
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