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* 「あっ、やっぱりカイルのことだった!」 「ほら言っただろ」  何度か休憩を挟みつつ、授業と寮生活のオリエンテーションが終わって昼休憩の時間になると、廊下から目を引く赤毛と対照的な黒髪の頭が二つ中を覗き込んできた。  ギャスパーとジョシュアだ。 「おーい」と手を振ってぴょんぴょん跳ねる元気いっぱいのギャスパーに、セレナは手を上げて答えた。  今朝、寮の食堂で朝食時に顔を合わせたばかりだが、二人の顔を見てセレナはひどく安心した。  昨日知り合ったとは思えないほど、気さくな二人にセレナはとても助けられている。 「知り合いか」 「はい。一緒に昼食を食べる約束をしてたんです」 「そうか」 「……殿下も食堂を利用されますよね? もしよければご一緒にいかがですか?」 「俺も、いいのだろうか」 「もちろんです。二人も殿下とお話したいと言っていました」  配られたプリントを鞄にしまったセレナとアンリは、廊下で待つ二人の元へ向かった。 「二人ともお待たせ。殿下もご一緒してくださることになったよ。殿下、ギャスパーとジョシュアです」  挨拶を済ませた四人は、食堂へと向かう。にぎわう中、どうにか四人テーブルを確保して各々ランチを手に着席できた。  もちろん、セレナの隣はアンリだ。 「オリエンテーション疲れたよね。あんなに一気に言われても、忘れちゃうなぁ僕」 「そうだね。覚えることはたくさんだね」  人懐っこいギャスパーは、アンリがいても臆することなくさっきから一人で喋っている。 「規則が多いのは気に入らないが、ここの飯はどれも美味いな!」 「もう、ジョシュは朝からそればっかり!」 「食事は美味いに越したことないだろ?」 「そりゃそうだけど、オリエンテーション中ずっと『あー腹減った』『食堂のメニューなにがあるかな』って聞かされてた身にもなってくれる? おかげで先生の話が全然入ってこないったら」  二人のやり取りに自然と頬が緩む。食堂にいる今も周囲の視線は突き刺さるようだったけど、二人きりじゃない分、分散されて大分気が楽だ。 「それにしても……ジョシュアはよく食べるね」  ピラフを大盛にして、トッピングにチキンカツレツをチョイスした上に、パスタまで頼んでいた。それらを流れるように口に放り込んでいく様は見ていて感心してしまう。本当なら、もっと肉付きをよくしたいセレナもたくさん食べるべきなのだが、元々食が細くて食べたくても食べられないからうらやましく感じる。 「このくらい序の口だぜ」と胸を張るジョシュアの隣でギャスパーは「ジョシュの取り柄はこの食べっぷりくらいだから」と肩をすくめた。くるくるの赤毛が肩の上で弾むのを、可愛いなぁとセレナは微笑ましく見ていた。  しかし、さっきからアンリが一言も言葉を発していないことに気づき、「あ、二人は幼なじみだそうです」と付け足す。 「そうか」 「殿下の食べてるオムライスも美味しそうですね」と、今度はギャスパーが話しかけてくれたが、「あぁ」の一言で撃沈。  基本的に寡黙な人なんだろうなとセレナは今日一日一緒にいて思った。 (うーん、話が弾まない……) 「えっとー……、あ! そ、そう言えば! さっき、教室に来たときに二人が話してた“やっぱり僕のことだった”ってどういう意味?」  気になっていたが、タイミングが合わなくて聞けずにいたことを思い出して尋ねてみた。
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