第1章 罪

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大貴は携帯を床に置いて布団に横たわり目を閉じる。陵と話したのも約1ヶ月ぶりだろうか、今までよく一緒に居たのが嘘のように感じる。 暗く狭い部屋の中に明るい光が平たい板のような形に射し込んできている。僅かに開いたカーテンの隙間から射す朝の光。雀のさえずりを聞きながらだんだんと意識が遠退いていく。 深夜、バイト先のコンビニの駐車場で酔っ払った男達が大声で話しながら屯ろしている。 近隣住民から苦情が来る前に注意をしないといけないのだが、逆上されて殴られたりしても癪に障るためそのまま見てみぬふりをする。 しばらくして外を見ると男達の姿はない。 外に出て先ほどの男達が捨てたであろう酒の缶や吸殻を拾い、黙々と掃除を始める。 深夜2時過ぎ、周囲は静寂に包まれている。 掃除が一通り終わって店内に戻ろうと振り返った瞬間、顔中傷だらけになったスーツ姿の中年の男がこっちを睨みながら立っていた。 知り合いでも顔見知りでもない男だが見覚えのある顔…。いや…忘れられない顔だ…。 突然のことに大貴は言葉も出ず、足が震えて身体が言うことを聞かない。男は狂気に満ちた目で大貴を睨みながら1歩ずつ詰め寄ってくる。男の腹部からは大量の血が流れていて、白いYシャツが真っ赤に染まっている。 男の顔が目の前まで来るとドスの利いた低い声で呟く 「逃げ切れると思うなよ…?」 慌てて布団から飛び起きると大量の冷や汗が身体中の肌にじっとりと染みていた。 胸を強く締め付けられるような痛みを感じて心拍数も急激に上がっている。 ゆっくり呼吸を整えながら携帯の液晶画面に表示された時計を見る。 ''午後17時'' カーテンの隙間からは夕焼けの赤い光が部屋に差し込んでいた。 布団に入ってすぐ眠ってしまっていたようだ。 「またあの夢か…」 消え入るような声で独り言を呟くとゆっくりと布団から起き上がり、冷蔵庫から500mlのペットボトルの水を取り出し、勢いよく口の中に流し込んで一呼吸置く。 夜に陵との約束があるためすぐに準備をしないと間に合わない。風呂場へ向かい、シャワーを浴びて冷や汗でベトベトになった身体を綺麗に洗い流していく。 ''バレるのも時間の問題'' 脳内に響く…。 それをかき消すように頭を掻きむしりながらシャワーを浴び、身支度を整えて自宅を後にした。
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