第1章 罪

7/12
前へ
/21ページ
次へ
飲み干して空になったグラスをテーブルに置いた陵が少し気まずそうにしながら口を開く。 陵「明日で半年になるな…」 大貴「そう…だな…」 陵「本当に悪かった…巻き込んじまって…」 大貴から目を反らし、視線を落とした状態で眉間に皺を寄せながら思い詰めたような表情になる彼の容姿は、会っていなかったこの3ヶ月間で激変したように思えた。 顔の頬はこけ、目の下にもクマができていて身体も更に痩せてしまったように伺える。 大貴「もういいんだよ…。今更どうすることもできないんだから…」 大貴も陵に続くようにグラスに残ったビールを飲み干していく。お互い目を合わすこともせず再度2人の間に沈黙が訪れる。 この半年間、''あのこと''が頭に過ってしまい、陵と笑って会話をしたという記憶がほとんどない。2人でくだらないことで笑い合ったり、お互いの近状報告をし合っては励まし合ったりと、そんな他愛もない2人の時間がいかにかけがえのないものだったか…今身に染みて実感している。 陵「もし万が一バレたとしても…全部俺の指示でやったって言ってくれ…」 大貴「うん…」 陵「俺が巻き込んだだけなんだから…お前に非はないよ…」 大貴「……………」 巻き込まれたのは事実だが、全て陵に指示されてやったと言ったところで許されることではないだろう。罪を犯したのは事実であって覆すことなどできない…。 その後もお互いに追加で酒を注文するが、酒も会話も進むことはなく入店から2時間ほどが経過してから店を出た。 繁華街の歩道を無言で並んで歩く2人、昔ならこのままクラブへナンパしに行ったりしていたがとてもそんな気分にはなれなかった。 3ヶ月ぶりの親友との再会。 普通なら話す話題も尽きないはずなのだが、結局暗い雰囲気の飲み会となってしまった。このままではいけないと毎回思うのだが、どうしても会話が弾まない。 そのままお互い一言も発せぬまましばらく歩いて、合流した最寄駅に戻ってくる。 陵「今日はありがと。またな」 力なく手を上げて去っていく陵の背中をしばらく眺めていると、もう2度と会えなくなるような…表現し難い、訳もなく寂しい気持ちにひしひしと襲われた。 大貴「陵!!」 咄嗟に出た大声。 陵は驚いたような表情をして振り返る。 大貴「俺は大丈夫だから!あんま気落とすなよ!また近い内にどっか出掛けようぜ!」 不安な気持ちを隠しながら必死に虚勢を張ってみせる。 本当は大丈夫なんかじゃない…でも少しでも陵の笑顔を最後に見て別れたかった。 陵「おう。ありがとな!」 陵は笑顔を見せてもう一度大きく手を上げて去っていく。陵の笑顔が見れて少し胸をなでおろした大貴は自宅アパートへと歩を進めた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加