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花と水
「…それじゃ僕は、これからドアのガラスとショーウインドーと…ショーケースを拭くね」
「今日は、午前中だけ店を開けて、午後からは講義があるから。忙しいな…昼どっかで食う?」
アサキが、店側の時計を気した風に眺める。
「大丈夫。朝ご飯と一緒に、おにぎりとオカズを作ったから。向こうで食べよう」
「えっ、マジ? めちゃくちゃ嬉しい」
「良かった」
共有とか、まだ少し。
一緒に、慣れないことも多いけど、その隣に安心できる時間が、何よりも愛おしいって、気づき始めたような気がする…
「あっ…そうだ」
「ん?」
「週末。なんか用事ある?」
「無いけど…」
「じゃさぁ…週末…車レンタして、お前の荷物取りに行く?」
「えっ…僕。部屋決めてないけど……」
「バーカ。ここに持ってくんだろ? もうそれでいいだろ?」
「アサキ?…」
相変わらずポーッとした表情のままセリは、俺の方を見ていた。
「ボーっとし過ぎな。意味分ってんの?」
「えっと……その…」
「一緒にってことな…」
俺は、わざと眼の前で手をヒラヒラさせた。
「えっ…なに?」
不思議そうに俺の手を取るセリの手の平を、俺の指先に乗せる。
「指輪…新しく作った。いや…その前のは、渾身の作って感じだったけど…色々と曰くが付いて、そのまま店のディスプレイになったから。また作ったとか言うなよ…」
「強引だねとは、思うよ」
もう片方の握った手から指輪を、差し出す。
「キザったらしいけどさぁ…受け取って欲しい。勿論、嫌じゃなきゃだけど…で、ここに居て欲しい」
「うわぁ〜っ…ストレート」
そう言いながらニコニコして言ってくれたセリに今は、心底安心している。
「ありがとう」
ぴったりと、ハマるサイズと分かって作っているのに…
左手の指にはめ終わるまで、緊張した。
羽をモチーフにして青い石を葉で囲み石を、その中心に咲く花に見立てた。
「似合う?」
「うん」
笑顔が戻りつつあるセリに、よく似合っている。
セリは、掃除をしながら。
店番をしながら。
嬉しそうな表情を、浮かべている。
そして時々、通りを眺めたり。
手元の指輪を、見詰めてにっこりと笑う。
この時間が、俺にとっては、かけがえの無い時間だ。
勿論。同じ時間の中で笑いもすれば、怒りもする。
きっと、泣くこともあるかも知れない。
でも、それを誰よりも側で、見守られるなら。
「アサキ休憩しよう。レモングラスとミントのお茶作ったから飲む?」
「飲む」
これかは、ずっと二人で、こう言うやり取りをして行けたらと、より強く思えるようになった。
終わり。
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