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愛おし人は影すら愛おしい
文化祭当日の夕方、蒼を探した。昼間は、展覧会の受付の当番や、委員会の仕事でなかなか動けなかったのだ。運動部には、展覧室が設けられていないため、探すのはかなり苦戦した。
が、ついに見つけた。校舎裏にいたのだ。しかし、いるのは、蒼だけではなかった。さくらもいたのだ。何か話しているようにも見える。部長間の伝達だろうか。でも、それなら連絡網があるはず...などとぼーっと考えているうちに、見てしまった。
蒼がさくらに口付けをしていたのだ。
驚いて、校舎の影に隠れる。
そして、さくらの今までの言動を必死に思い出していた。そうか。ミーハー心で蒼の追っかけをしていたと思っていたけど、さくらも蒼に恋をしていたのだ。最悪なことに、私は蒼かさくらのどちらかの告白場面に立ち会ってしまったのだ。
本当に運が悪い。しかし、こういうのは早い者勝ちだ。仕方がない。そう思っても悔しくて、涙が溢れてきた。泣いて泣いて泣いて、ふと、視線を下にやると、蒼とさくらのシルエットが真っ直ぐ自分の方に伸びていた。シルエットの二人の手はしっかりと繋がれている。もう憎らしくて仕方がない。怒り任せに踏んでやろうとしたが、寸前で思いとどまった。
結局こんなときでも、愛おしい人達の影は愛おしくて仕方がない。
『文化祭1日目の閉会式を始めます。生徒は体育館に集まってください。』
アナウンスが流れたが、二人には聞こえていないようだった。
二人の影を避けて、一人体育館に向かう。
夕日が傾いた空が本当に綺麗だった。まるで、文化祭のために書いたあの絵のようだ。自分に当たった光源が創り出す影が少しでも美しく見えるよう、背筋を伸ばして、一人その場を離れた。
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