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部室にて4
『下校時刻となりました。校舎内に残っている生徒は速やかに下校してください』
やばい。あともう少しなのに終わらなかった。これ以上部室での作業はできない。
仕方がない。残りは家でやろう。ドライヤーで、乾かせるだけキャンバスを乾かすと、急いで部室を出た。
早歩きで駐輪場に向かうと、蒼がいた。自転車にまたがって、ちょうど校門から出るところだった。文化祭前日だというのに、今日も自主練していたのか。そんなことを思いながら、突っ立ていると蒼と目が合ってしまった。
「あ!はづき、部活?おつかれ!あれ、西田は?いつも一緒じゃん」
「さくらは先に帰ったよ。私だけ制作終わらなくて。残りは家でやるつもり」
平静を装って答えたつもりだったが、内心どぎまぎしていた。部活後の蒼は、なんとなく話しにくい。蒼を好きになったのが部活動をしているときだっただけに。変わったようで、結局は、何も変わっていない自分との差が痛いほどに眩しい。私に真っすぐに向けられた視線がしんどくて、でも、吸い込まれそうなほどに綺麗で好きだと思った。ふと、視線を地面にやると、蒼の伸びた影がこちらを向いていた。まっすぐ伸びた影ですら、もう愛おしくて仕方がない。
「家でやるのかー。大変だなあ。ちょっと見せてよ」
私の気持ちに少しも気がつくことなく、蒼は言った。少しだけなら、と言って私もキャンバスを蒼の方に向ける。
「おお!すごい。夕焼けの絵か。電線のシルエットがいいね。」
褒められて思わず、心臓がどくっと動いた。やっぱり、お世辞だとしても嬉しいものは嬉しい。
「はづきも結構変わったよなー。」
「変わった?どこが?」
思わず、食い気味に聞いてしまう。
「どこがって、昔はそんなに何かに熱中するような性格じゃなかっただろ。そんなに絵もうまくなかったし。って、それはもしかして失礼か。じゃ、俺先帰るよ」
それだけ言うと蒼は、颯爽と帰っていった。先に帰ってくれて良かったと思った。頬が熱くなるのを感じる。ずっと頑張ってきたことに気がついてもらえた。嬉しくて、涙が出そうだった。この顔を見られなくて本当に良かったと思う。
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