回想1

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回想1

 私が、中田蒼を好きになったのは、中学に入って少したったころだった。  蒼とは、同じ団地に住んでいるということもあり、小学生のときは約束をせずとも毎日一緒に登下校をしていた。家に帰っても、荷物を置いてすぐ、団地の公園に向かえば、同じ団地住まいの友達に混じって蒼がいて、一緒に遊べる。そんな私たちを、カップルだなんだと冷やかす子もいたが、全く気にならなかった。  しかし、中学に入ってから一緒に登下校をしなくなってしまった。理由は簡単だ。お互いの生活時間がずれたのだ。  中学校では、部活の強制加入という理由で、蒼は陸上部に、運動全般が苦手だった私は消去法で美術部に入った。陸上部は週4の練習に加え、土日練、朝練もある。一方で、私が所属した美術部は、活動日数は比較的少なく、活動自体もゆるめだった。  当たり前だが、近所の小学生に混じって公園で遊ぶ中学生はおらず、クラスも離れた私たちの接点はほとんどなくなり、廊下で会うと、一言二言話す程度になってしまった。  しかし、それで一緒にいた時間の喪失感を覚えて恋心を自覚した......などという話ではない。私が蒼を好きになったのは、部活動に打ち込む姿を見てからだった。    美術室前の廊下からは、グランドが一望できる。部活動を終え、帰ろうとしたときだった。ふと一人残って練習している蒼が見えた。  数年来のつきあいながら、ひとめぼれだと思った。まっすぐ前を向いて走る姿が、とにかくかっこいいと思った。かっこいいと言っても姿だけの話ではない。
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