回想1

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 前述したとおり、私は、中学のとき、部活動強制という校則の中で、仕方がなしに美術部に入った。  私の通っていた中学校では、運動部の他に文化部が美術部と吹奏楽部の2つしかなかった。運動が大の苦手な上に、人と深くコミュニケーションをとったり、集団行動や、責任を感じるチーム競技は避けたかった私は、運動部と吹奏楽部を選択肢から排除。よって、美術部に入るしかなかったのだ。  正直、入部する人は、皆私と同じような理由で入った子ばかりだと思っていた。私のように、何の目的もなく生きていて、堕落的な気持ちからこの部活に入部した人。  しかし、蓋を開けてみれば、私のような子はいなかった。絵を描くことが好きで入部した者。外部で、熱中しているものがあって、部活動に時間を取られたくなくて入部した者。良い高校に入りたくて、勉強に時間を割くために入部した者。理由は様々だったが、皆、私のような空っぽな理由ではなかった。  ちゃんと皆自分があった。    入部した当初は、己に対する多少の恥ずかしさはあったが、正直どうでもいいと思っていた。人は人、自分は自分だ。私にもいずれ、何か一生懸命になれるものができるかもしれない。  そんな風に思っていたが、努力して頑張っている蒼を見てから、はっきりと「自分には軸がない」と自覚してしまった。「私にもいずれ、何か一生懸命になれるものが...」  いや、それは一体いつなのだろうか。  尊敬と恋心が混じったような感情に心を激しく揺さぶられるのを感じた。同時に自分に対する劣等感も覚えた。  そんな複雑な恋心を抱いてから、5年。高校2年生になった今でも、私は蒼にひそかに思いを寄せていた。
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