部室にて1

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部室にて1

 「うーん。やばい。文化祭までに終わるかな...」  「終わらせるしかないよー。という私も結構ピンチだったりするけど」  自分のキャンバスを見ながら、さくらは、はぁ、とため息をついて呟いた。  こういうときのさくらは、大体返答は求めていない。中学からのつきあいで、なんとなく分かってきた。しかし、私自身追い込まれた心境だったため、なんとなく返してしまう。    一息つきながら、隣のさくらのキャンパスを眺める。さくらは、想像画を描くのにハマっているらしく、キャンバスには、幾何学的な模様や、人の目、動物の目などが想像を掻き立てるよう沢山描かれていた。吸い込まれそうになるほど、素敵な作品だと思った。正直何が足りないのかが分からない。  「さくらは、他に何が書きたいの?」  「他に書きたいものもない。けど、なんかまだ描き足りない気がする」  「なにそれー。私はまだ完全に未完成なのにー。」  うーん。と伸びをすると、私は、また自分の作業に戻った。  私たちの通う学校では、6月の初めに、文化祭がある。今日はその前日。美術部は、そこで展覧会をするのが毎年の恒例なのだ。それなのに、部員の中で私とさくらだけ、制作が終わっていなかった。  時間はない。だが、妥協はしたくない。本来は、放課後に何時間でも残ってやりたかったが、クラスの出し物の準備にも参加しないといけなかった。結果、制作はギリギリになってしまい、前日、多くの生徒が文化祭に備え、早々に帰宅する中、私たち二人は部室にこもって作業するほかなかった。  「おー!はづき今回は夕焼けかー。いいねえ」  私のキャンバスをのぞき込んでさくらは言った。  
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