回想3

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回想3

 そう。自分からは、話しかけられない。    中学を卒業し、同じ高校に進学しても、同じクラスになることは一度もなかったが、蒼は廊下で会うたびに、話しかけてくれた。  そう、この間なんかも話しかけてくれた。  体育の時間、グラウンドから帰るとき、ちょうど入れ替わりで体育の授業がある蒼にあったのだ。  「はづき、美術部は文化祭の準備進んでいる?」  いきなり、大声で名前を呼ぶものだから、びっくりした。何人かのクラスメイトが、こちらに視線をやるのを感じた。  「ぼちぼちって感じかな。私とさくら以外は、みんな作品完成しているよ。中田くんとこは?」  思わず、呼び捨てではなく、苗字で呼んでしまう。  「陸上部は全く手つけてない。文化部みたいに展示ないから、紹介ポスターだけなのに、全然手つけようってならないんだよなぁ」  はは、と愛想笑いで返した。蒼と話すのが嫌いなわけじゃない。むしろ、数日に一回、蒼が話しかけてくれるのはうれしい。でも、周りの目が気になるのだ。勿論、「付き合っていると勘違いされる」などという自意識過剰な考えからではない。むしろ、その逆だ。 (陰キャのくせに男に色目使ってる) (澤村さんって、男子と話せたんだ) こんな風に思われているんじゃないかと思うと怖かった。この学校にスクールカーストらしいカーストがあるわけではない。むしろ、話すのが苦手な自分に皆優しくしてくれていると思う。しかし、良かれ悪しかれ、蒼と話すことで、何か感想をもたれるのが怖かった。
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