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 大雪警報が発令されると、さすがの雷電崎部長も不安になったのか、交通機関への影響を恐れて説教を早めに切り上げて退店してくれたのは幸いだった。  店の停電は間もなく非常用電源で復旧したが、町はまだ暗いままだった。送電設備に異常が発生したのが原因らしく、復旧は深夜になるらしい。  雪の粒は大きく、外気温も急激に下がってきた。大量のいなり寿司もまだ1000個以上残っている。  樹一は、降りしきる雪空を見上げた。雪とともに溶けてしまいたい気分になった時、いなり寿司を満載した次便の軽トラが到着した。樹一はへなへなと座り込みそうになった。 「また来たね。行商やる?」  日配品チーフの茂森あゆみが憐れむように樹一の横に並んだ。  その冗談っぽいひとことが、樹一を奮起させた。 「あの。茂森さん、協力してくれませんか」 「は? アタシ、何もできないよ」 「茂森さん、田舎どこでしたっけ?」 「酸ヶ湯温泉」 「酸ヶ湯に比べて東京の大雪はどうですか」 「10センチや20センチなんか雪のうちに入らないよ。こんなんで道路をトロトロ走っていたら、どやされるよ」  彼女はけらけらと笑った。青森県の酸ヶ湯は5メールも積もる豪雪地帯である。 「停電している団地を、移動スーパーで回るんですよ。ほら、ウチにも専用の軽トラがあるじゃないですか。今日は雪で巡回販売は中止になっていますけど、おでん鍋で熱くしたおでんといなり、飲料に懐中電灯用の乾電池とか積みこんで…」  樹一は提案してみた。茂森あゆみはパチンと手を叩いた。 「あ、それいいかも。アタシが軽トラを運転するから、あなた、しっかり売り込んで。おでん鍋は携帯用加熱器で温められるし、いなりも売れるかも」  にわかに忙しくなった。二人は各部門を回って、停電してもすぐに食べられる食料品の調達を頼んだ。みんな協力的だった。嫌味な藪塚チーフさえもが、軽トラのノーマルタイヤをスタッドレスタイヤに交換してくれた。  午後二時。  物資を満載した軽トラの移動スーパーは、みんなに見送られて出発した。
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