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樹一はSNSでいなり寿司パニックを訴えた。30を3000にしてしまい、どうかお助け下さいませ。そんな内容である。いなり寿司の画像もアップした。
【雪が降り、お足元が悪くなりますが、通常1個90円を4個入り1パック200円で販売しますので是非お越し下さいませ】
あとはどのくらいの人がこの文面を読んでくれるかだ。しかし、これでは不十分だと考えた樹一は総務へ行った。
顧客が登録している<ガーデンマートアプリ>へ、いなり寿司のわけありを販売しますの宣伝を送信していいか、訊ねてみる。
発注ミス事件はすでに店中に広まっていたから、総務責任者は薄くなった髪に手をやりながらネガティブな発言をした。
「それで捌けるのか?3000だぞ。私は無駄だと思うけどね、まあ、やってみよう」
「ありがとうございます!」
樹一は礼を言うと、厨房へ戻った。
厨房内は大量のいなり寿司の匂いが立ち込め、各部署からの応援者でごった返していた。その中に精肉チーフの藪塚も混ざってパック詰めの手伝いをしていた。
「100パックが限界だぞ。あとは、おめえがやれや」
藪塚が機嫌悪そうに怒鳴った。
「すんません、ありがとうございます」
樹一は、なんでこいつがいるんだと思ったが、さすがに口には出せなかった。藪塚は追い打ちをかけるように続けた。
「雪の日は、いなりを雪合戦の玉にして、花岡樹一君にぶつけましょう」
樹一は嫌味に耐えた。耐えても400個分にしかならない。あと2600個。
400個ですら売れないかもしれないのだ。不安と焦りで、冬だというのに口の中がからからに乾いている。
そこへ田島チーフが泡を食ったように現れ、
「雷電崎部長がお見えになった!いなりの件で雷電崎部長と店長に報告しなきゃならない」
それだけ言い残すと、厨房から姿を消した。
樹一は申し訳ない気持ちで一杯になったが、しおれている暇はなかった。
その時、厨房のインターホンが鳴った。
交換だった。
「本部SV部の海老原さんからです」
すぐにつないでもらった。
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