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 雪の止む気配はなかった。道も公園の木々も家々の屋根も真っ白になり、行き交う車はヘッドライトをつけている。  茂森あゆみは軽トラをしんと静まり返った団地広場の真ん中に止めた。街灯は消え、団地の窓は廃墟のように暗かった。  軽トラから降りたあゆみは、さっそく開店準備を始めた。  樹一はスピーカーのスイッチを入れた。軽快で親しみやすいテーマ曲が流れると、樹一はマイクを握りしめた。 「毎度お騒がせしております。こちらは、移動スーパー・ガーデンマート号です。本日は雪の為、あちらこちらで停電しておりますが、当店で熱々おでん、すぐに食べられるいなり寿司、お茶のペットボトル、お弁当、パン、懐中電灯に必要な乾電池などをご用意して参上しました。どうぞ、ご利用くださいませ」  放送を五回ほど繰り返すと、付近に子供連れの母親やお年寄りの姿が見えた。団地の窓が開いて、軽トラを見下ろしている住人もいる。  10分もしないうちに、移動スーパーの周りには人だかりができた。  熱いおでん鍋から出汁醤油の湯気立ち昇り、その横には4個入りいなり寿司パックがこちらも一緒に召し上がれといわんばかりに、存在感を見せつけた。  やがて長い行列ができた。その様子はSNSで拡散され、近所の住人たちがますます集まるきっかけとなったのである。  大雪による停電パニックが、樹一のいなりパニックを救うことになるとは皮肉だった。  帰路。  いつの間にか雪は止んでいて、電車の踏切を通過した時、線路が蒼く光っていて、忘れられない記憶になるだろうと思った。    
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