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「あ゙ー、目が痛ぇ!」
「少し休んだらどう?ほら、これよかったら」
資料のファイルとPCに板挟みされている俺に、エナジードリンクを渡してきたのは、上司である日比谷京平。前はガッシリとした身体付きだったというのに、半年前から一気に細く弱々しい見た目へと変わってしまった。
それが残念だ。
俺はエナジードリンクを受け取りつつ、ジトリと先輩を見遣る。これって眼精疲労にも効いただろうか。
「日比谷先輩が言ったんでしょ。半年前に起きたことを改めて調べたい〜って。マル被の捜索は切られていないんだし、事が動いてからでいいんじゃないですか?」
「それじゃ駄目なんだ。未だに頭が混乱しているんだよ。何が起こったのか、理解出来ていないっていうか。だからちゃんと頭に入れておかないと」
「••••••難しいところですよ。足取りが途絶えて久しくて、マル目も忽然といなくなっちゃって。迷宮入りの真ん前にいるんですから」
マル被が見付かる可能性はだいぶ低い。半年も経過していれば、情報は見付かりづらくなる。時間が経てば経つほど、全てが暗闇に包まれていく。
俺は資料を捲って詳細を見る先輩を横目に、エナジードリンクのプルタブを開け、思い切りズズっと啜った。
「このマル目の女性は事件発生の一年前から、度々ストーカー被害を訴えていたみたいだね。その案件を担当していたのが俺だった。そして俺は半年前そのストーカーに刺されて、一度死んで、生き返った」
「そうっすよ。マル目の女性は雰囲気が全体的に暗い人で、今の先輩みたいな性格してましたけど、それでもかなりの美人さんで。先輩は熱血だったから、凄い親身にその人の話を聞いてやってさ。そんで、身を呈してその人を庇って一度死んで生き返る。マジでラノベかっていうレベルで凄いことですよ?」
そう、凄いと思っていた。だから残念なのだ。
俺は席を立ち、先輩に自分の資料を分けてやる。自分のことは自分でもっと調べて欲しい。
「え、えぇ••••••」
「何不満そうにしてるんですか?デートしてパワーチャージしたんだから、それくらいやってくださーい」
「だからさぁ••••••」
全くもう、と言いながら先輩は資料を読み進めていた。
俺はそれを冷ややかに見てから、トイレへと向かい、一番隅の個室へ入って鍵を掛ける。
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