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自分には一部の記憶がない。
幼少期でも、赤ん坊の頃でもない。駐在所勤務から、捜査一課に配属されてからの記憶だ。高揚感は微妙に覚えているものの、それ以外は無。
俺の頭は、配属されてからの丸々一年分の記憶を失った。
だから今の自分からすれば、『昨日まで駐在所に出勤をして制服に袖を通していたのに、何故か翌日からスーツを着て本庁へ出勤するようになっていた』ような感じだ。
厳密に言えば本当にそうなった訳ではなく、気が付いた時に寝ていた病室のベッドの上で、後輩に言われたのが切っ掛けだった。見たこともない後輩だという刑事に愛想笑いを浮かべ、帰って行った後は理解に苦しんだ。
段取りの時間があったとしても、だ。
こんな状態で――刑事なんて務まらないと思った。
そして何より••••••
『ミテル、見てル』
『お兄サァぁあン』
『痛い?いたーぃ、いたいネ?』
『取り替エっコだねェェェェ』
金属が歪むような音と共に、不気味な声が連鎖していく。耳を塞ごうが止まりはしない。彼らがここにいる限り。
天井上からは幼子の頭が突き出して目をギョロリとし、身体中から血を流す中年男性は俺の足を掴もうとして手をすり抜けさせ、顔を腫れ上がらせた老婆は頭を撫でようとする。そしてまた天井にいる子どもが、訳の分からないことを言い始める始末。
あとは横目で数えて、壁際に九体。天井に四体。ベッド横に六体。窓から入ってきたのが五体。合計、二十四体。
寝て覚めたら幽霊が視えるようになっていたなんて、誰も信じない。
自分でさえも。
これが半年前のことだ。
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